私のイチオシ、紹介します! 2016.5

『 岸辺の旅 』

 湯本香樹実 (著)/ 文春文庫

 

 深夜、白玉を作っていると、突然妻の瑞希の前に行方不明だった夫の優介が帰ってくる。自分は海の底で蟹に喰われてしまって、今はもうこの身はないと言うのだ。そこからずっと歩いて来たため、戻るのに三年もかかってしまったと。翌日、ここに来るまでに立ち寄った場所を訪ねようと、二人で旅にでる。電車に乗って辿り着いた、街の新聞配達業の老人の家。夫婦の経営する食堂。勤務先で優介との関わりをもっていた女。二人は分かりあえていたようで、実は分からないことや知らないことばかりだったと知る。そして山奥の農村にたどり着いた時、この旅の終わりが近づいている事を予感する。名作「夏の庭の」作者 湯本香樹実さんとは知らず、昨年の映画のコマーシャルを見たことが購入の理由。失踪という理由では三年が過ぎても、夫が死んでいるとは認めたくないでしょう。旅に出てから、この世かあの世かわからないもうろうとした時間の中で出会う人たちによって夫は死んでしまったという現実を、ゆっくりと自分自身に納得させていったのでしょう。今までの物がすべて過去になって行く感じが悲しいです。4月末DVDレンタルになります。が、まずは書籍からどうぞ。

(堀内)