2.5人称の視点
皆さま、こんにちは。降れば土砂降り、晴れると夏並みに暑いジェットコースターのような天気が続きますね。
一方、街中の人出はすっかりコロナの前に戻ってきた気がするのですが、皆さまの生活はいかがでしょうか?
さて、仕事でもリアルの交流が戻ってきました。先週末には塗料メーカー様の代理店会があり、その中の講習で私ははじめて「2.5人称の視点」を学ばせてもらいました。講師は日本航空の社員さんです。
同社のサービスには、基本品質として社員なら誰もが変わらずにやって当たり前のことを定めているそうですが、仕事はそこで終わらないといいます。ここまではただの「作業」。ここから社員さんそれぞれのパーソナリティを存分に発揮した「心」を具体的に表現して仕事にするのだそうです。あなたが感じた「心」を「あなたらしく表現してこそおもてなしになる」という考え方はさすがだと思いました。「心」や「気持ち」は見えないものですが、「心遣い」や「気遣い」は見えるものです。
日本航空では、基本品質までは同じでも、社員さんがそれぞれに異なる知性である限り、相手の何を見て、何に関心を寄せ、何を察するかは違うのだから、それを言葉や行動として表現しようとしています。講習の中では、一度うまくいったからと、それを繰り返して大失敗になった事例も織り交ぜて、「おもてなしと思ったことが、ただの思い込みだった」ことなどもお話くださいました。おもてなしの道に終わりはなさそうです。
確かに現場はライブです。いつも違う相手を前にして、私たちが今・何を観て・何に気が付くかは異なりますし、こちらの感性のありようで変わることもあります。その瞬間、瞬間に、「今だけ・ここだけ・あなただけ」の世界が開いていき、その時だけの私たちらしい行動、「おもてなしの心」が生まれていきます。
そこに、「2.5人称の視点」です。同社は世界のエアラインと様々なアライアンスを組むようになって否応なく多くの改善に乗り出しましたが、そのとき外部アドバイザーとしてノンフィクション作家の柳田邦男氏から、もっとも足りていないと指摘されたのが「2.5人称の視点」だったそうです。ちょっと難しいのですが、一人称とは、お客様ご自身(自分)のこと。二人称とは、お客様のご家族や大切な人のこと…ここには自ずと「思いやり」が宿ります。三人称とは、お客様にとってプロとしての機能や視点を持つコチラ側です。
どんな立場からものごとを見るかによってものの見方は変わりますが、プロ(専門家)として見てしまい、正論を振りかざしても、お客様は納得して受け入れてはくれません。プロ(専門家)としてだけでなく、最良の友人として最適性を実現する立場、それが「2.5人称」です。2.5人称の立場、視点から、プロとしてのサービス・機能を提供しながら、家族を思いやるように、その人らしい「思いやり」を添える。これが、最適な現場を創り出すという考え方は、仕事をするすべての人を一流に変えてくれるヒントだと思いました。
話は少しそれるかもしれませんが、私の母は亡くなる前のがん治療で、家族会議で姉や私と打ち合わせた結論とは別の、医師の勧め通りの治療を内緒に受けて余命どおりに亡くなってしまいました。私は母の死後、母は人がいいから医師が勧める治療を断り切れずに亡くなったのではないかと医師を恨みましたが、母にとっては家族会議で決めた治療方針よりも、先生のプロとしての言葉や2.5人称の関わりがあって命を任せる気になったのかもしれません。事実、亡くなる直前まで、「お前たちのいう通りにしておけばよかった」、というような後悔を口にしたことはありませんでした。今となっては事実はわかりませんが、プロとして仕事をするのですから、人としてその人らしい「思いやり」と、プロとして相手から一目置かれる「さすが」の領域を提供する、「2.5人称の視点」を持った人として、ありたい結果を実現に導ける人になりたいと思います。
プラスデコ代表 原田 学