社長の思いつ記 2014.9

皆様、こんにちは。書き出しに天候不順に関する話題が続きますが、梅雨明けしてからの夏本番、空を見上げるとなんと夏空の少ないこと!お盆休みにあっては何とも季節感のない空模様で、思わず秋の実りへの影響を心配してしまいます。爽やかな長野を楽しみに帰郷された方々も残念な夏休みだったかも知れません。

さて、当社の化学品部門には自動車補修向けのビジネスがありますが、今や車自体の性能や車向け塗料の技術的進歩で、ボデー全面の塗替えはほとんど行われず、事故で潰れた箇所の補修に留まる斜陽分野と思われています。そんな事業分野を元気づけようと、同様に市場縮小にあえぐ自動車教習所業界で、年々、顧客を増やしている武蔵堺自動車教習所の高橋明希社長の講演会が企画されました。

まず驚いたのは、社長さんが先代の若きお嬢さんであったことです。先代はまだお元気で会社案内などにはその姿を拝見することができます。ではどうして? この答えはひたすらに、明希社長が先代や家族に「やめておけ」の反対を押し切って「やる!」の気概を示したことに尽きるのですが、どうしてそう思い立つのか。それは、“自分は、教習所を生業とした家に生まれ、今の私はその仕事に支えられてある”の思いでした。

今や武蔵堺教習所は、経済産業省のがんばる中小企業に選出され、地域になくてはならない企業としてのポジションを得ていますが、先代が同社を引き継いだのは、会社整理のためだったと言います。その経緯は壮絶なものでした。労働争議で事業が停止し、会社整理もままならない中、先代のお兄様が社長に就任、直後に、社員さん宛に整理を納得してもらいたいとメッセージを残して自ら命を絶ったのです。社長を引き継いだ先代は、「どうせ整理するのだ、出来ることだけはやってみよう」と発起して定めたのが経営理念でした。

『共尊共栄….共に認め感謝し、共に学び成長し、共に豊かになる』 労働争議に揺れた組織が大きな犠牲を払い、これほど切実に、我が社がどうありたいのかを願い、念じて生みだされた経営理念を私は多く知りません。 “共に認め感謝し”は、関わり合う人共々にと紹介されていますが、発案時点では、経営陣と社員さんのお互いが共に認め合い、感謝することを求めたことは容易に想像できます。

この理念の下に、同社は大変革を成し遂げていきます。お互いが尊敬に値する仕事振りとは何か? それはお客様の一生の思い出を創る仕事をすること。そのための取り組みは、サービス業として接客力を磨くことを越えて、通うのが楽しみになる仕掛けが満載。キッズルームやVIPルーム、ライダー向けにバイク情報誌を取り揃えた専用室、待ち時間を楽しみに変えるネイルサービスやハンドマッサージ、果てはメイク教室まで。卒業生向けに練習車貸与なんてサービスも。もちろん、地域に向けた様々なボランティア活動も旺盛です。

不況業種と言うことはあっても、不況会社とは言いません。一心に目の前のお客様に感謝し、一生の思い出創りが仕事なのだと捉え直したとき、そこにチームが努力や工夫をもってカタチにしたとき、業種で括られた世界からは解放されています。そもそも業界なんてお客様には意味のある括りでありません。明希社長に私が伊那出身だと話したら、すぐさま、「伊那と言えば、伊那食品工業㈱さん、菓匠しみずさんがありますよね」と名前を挙げられました。業界に留まらず、お客様から愛される企業の研究に余念がない!

景気に一喜一憂なんてとんでもないんですね。目の前のお客様に、どんな思いでお暮らし頂きたいか。そのための我が社の成長と変革を問うてみれば…まだまだ。内に残された打ち手は今この時も、早く振り出して欲しいと待っているように思えます。

    (プラスデコ代表:原田 学)