与えること
皆さま、こんにちは。私は新緑の季節が大好きですが、それは若々しさに溢れ、これから広がる未来を感じさせてくれるからです。当社では4月から2名の新入社員を迎えましたが、彼らにもまた、仕事を通じてイキイキと自分たちの思うような希望ある未来づくりをしてほしいと思います。
さて、経営者として心に残っていることを振り返ると、楽しいこともある反面、社員さんが辞めて行くときのほろ苦い別れのシーンを思い出すことは少なくありません。キャリアアップしたいと転職を理由に辞めていく社員さんにはフラれたような気持ちになるし、「ナイスコミュニケーション・カンパニー(NCC)なんて嘘っぱちだ」と言われたときには、社員さんから社長失格の烙印を押された気がしました。社員さんから「相談がある」と言われて身構えてしまうのは、「辞めたいという話だったらどうしよう」と心配するからです。別れ話には私の人生にとってダメージがつきまとう分だけ記憶に深く刻まれるのだと思います。そして、「花に嵐のたとえもあるぞ。さよならだけが人生だ」の一節が頭を中を流れていきます。
暗い話としては書きたくないのですが、先日、これからの会社づくりを語り合っていた、まだ43歳のS君が急逝しました。彼は次の時代を牽引してもらおうと研修に誘い、共に学んでいた大切な仲間の一人です。彼が逝ったことは今も信じられないし、もういないと思うと涙が滲んできますが、「悲しまないで。それよりいい会社にしてください、頼みますよ!」と笑顔で言ってくれる彼も浮かんできて、その面影に救われるのです。
私はS君に、信頼される人生がどう作られるのかを見せてもらったと思っています。彼は誰にとっても「与える人」で、私も多くを与えてもらい、これからも頼りにしたい、信頼する人でした。会社の業績が悪いときに賞与を支給した際には、S君が私を訪ねて来てくれ、「会社がこんなときにボーナスなんて受け取れない。返したい」と言われたときにはさすがに困りましたが、その心遣いというか気概は嬉しかったし、心強くなりました。
経営者として、どんな会社を作りたいかと問われたら、私は心から「お客様から慕われ可愛がられる会社」と答えます。それを支えてくれる人とは、優秀である人より、皆で良くなろうとする意欲のある人・そのための努力をする人です。その点で言えばS君はピカイチでした。私は今でも優秀な自分を見せようと努力をしているところがあり、人よりもできていないこと・苦手なことからは逃げようとします。私がS君を尊敬するのは、彼が人よりもできない、苦手だと思うことにも挑戦し、努力を続ける人だからです。
彼が倒れて病院に運ばれ、意識のない彼の手を握って、「困る、困るよ」と泣いてしまった私に、お母様が S君から言われたことを教えてくれました。「お母さんは死んでいくとき、“いい人生だった”って言える? 俺はそう言えるように生きてみたい。そう言っていたんです」 お父様からは、「最近は会社に行くのが楽しいって言って会社に出て行ってたんですよ」と声をかけてもらいました。会社の皆が折ってくれた鶴を千羽鶴にして彼のご自宅に届けにいったときには、ご両親と弟さんから、彼が変わろうと努力して、変わっていった彼のことを「幸せになって逝ったと思う」と伝えてくれました。大切な人が逝ってしまい、残された人から「幸せになって逝った」と言わせるほどの優しさに私には言葉がありません。
最近、朝のジョギングで気がついたゴミを拾い上げたのは、S君はゴミを見つけたら拾っていたからです。出張の新幹線で荷物を棚に乗せるのに苦労している人を手伝ったのも、彼に「今です」と言われた気がしたからでした。彼は与えることで与えられるものがあることをちゃんと知っていたのだと思います。S君がいなくなって、あちこちから彼にしてもらっていたという話が私のもとに届きます。その度に、私は社員さんにイキイキと働いてもらいたいと思っているのに、与えるよりも求めていることばかりのようで恥ずかしくなります。優秀であることより、ひたむきで与える人がこれほど人に慕われ、頼りにされるのです。私のなすべきことが与えることなら、そうする私になりたいし、私が逝ったときにはS君、あなたに恥じない私として会いたいと思います。
プラスデコ代表 原田 学