人生を豊かに
皆さん、こんにちは。酷暑の夏を越えて、何をするにも格好の季節になりました。食欲の、芸術の、スポーツの、読書の秋! 多様性の今どきですから、それ以外の〇〇の秋を楽しまれているかもしれないですね。
さて、当社は10月から新しい決算期に入っています。「100年企業を目指す」というようなキャッチコピーを目にすることがありますが、私自身は会社を引き継いでからというもの、会社を永続させるということにはあまり興味がありませんでした。もちろん、潰れてしまってはお客様や社員さんをはじめ関係する人たちに申し訳ないと思って努力はしてきましたが、お客様にとって価値ある仕事を創り出していないとしたら、時間をかける意味がない(永く続いたところで意味がない)と思っています。経験を重ねて来ると、仕事をするのに過去の経験でこなせてしまうことがあります。このことを「貯金で食べる」とも表現しますが、社員さんにとっても、そのような仕事の繰り返しでは申し訳ない気がします。仕事をすることで「疲弊していく」と考える人と「充実していく」と考える人がいるとしたら、社長の立場で言えば、社員さんには「充実していく」人たちになってほしいと思うし、そのように仕事を組み立てるのが私の役割なのだと思っています。貯金を切り崩すように仕事をする(疲弊)より、時間をかけた分だけ貯蓄が増える(価値が上がる)ように仕事をする方がいいことはすぐにわかると思います。価値を上げようとするなら、まずは、「これが私の仕事だ!」と態度を決めて、単純に仕事を繰り返すよりも、次はもっとうまくやるように工夫するか、新しい学びを得てトレーニングするということだと思います。
第二次世界大戦の終わりに、シベリアに捕虜として部下を率いて抑留され、地獄のような強制労働を最後まで生き延びた志水陽光さんという方がいます。一日わずかな食べ物しか与えられず、極寒の中で過酷な労働が続く中で、仲間が一人、また一人と死んでいき、ひと冬が過ぎる頃には部下の数は半分に減っていきました。そんなときに、同じように痩せているのに、眼を輝かせている一人の若い兵隊が他の部隊にいたそうです。志水さんが、「君はどうしていつも元気なんだ?」と尋ねると、彼は「私には、心に歌がある」と答えました。志水さんはすぐに部下たちを集めて「毎日、歌を歌いながら作業するように命じます。歌声は、口をついて耳に伝わり、心に響いて元気を養うのでしょうか。歌い始めてから数ヶ月過ぎる頃には、全員があの若い兵隊と同じように眼の輝きを取り戻していて、終戦から6年が経って志水さんの率いる部隊は、歌を歌い始めてから一人の落伍者もなく無事に日本へ帰還したと言います。 極寒の地で体力の温存を考えて労働に手を抜こうとした人たちがついには疲弊して果て、一方で歌を口にし、「今はこれが私の仕事だ!」と思って取り組んだ人たちに生気が戻ったことを、豊かなに現代に生きている私はこう受け止めたいと思っています。
仕事をするときには、せっかく仕事をいただいたのですから、昨日の私よりも新しい学びや価値をお届けするように努力する。仲間には、私こそ大変だというポーズを示すより、支えてもらっていることへ有難みや、温かさを表すようにする。人が生きていくということは、自分を消費していくことではないと思います。思うようにならないこともありますし、逃げ出したいときもありますが、人のやさしさを見逃さないことや、人にやさしくすることに喜びのあること、私たちに関わってくれる多くの人たちがいてくれることや、しなくてはならない物事のあることは、どれも人生を豊かにしてくれる大切なピースだと思います。
歳を拾ったせいなのか、今になってサラリーマン時代に大変そうに思えて断った残業のことなどを思い出します。していただいたまま、お返しもしていないのに、もう会うことのできない先輩方もいらっしゃいます。私の人生には、逃げたり失敗したことは十分過ぎるぐらいありますが、「そんな後悔はもうするな」と若かったときの自分が肩を叩きます。あとは今の私が「その通りだ!」と態度を決めて、そうするだけなのだと思います。
プラスデコ代表 原田 学